「ほしい未来はつくろう」を合言葉に、世界中のポジティブなアイデアを共有するウェブマガジン『greenz.jp』。環境問題や社会問題に関する記事を主にあつかい、その大小を問わず広く共有するメディアとして、ちょうど10年前の2006年に創刊した。

プロデューサーである小野裕之さんは、09年からgreenz.jpに参加。現在では経営に携わりながら、greenz.jpを主軸としたソーシャルデザインの仕事を多く手掛ける。

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「地域創世が推し進められる中、行政や民間からいろいろな仕事の依頼がありますね。社会問題や地域課題はgreenz.jpがもともとあつかっていたテーマなので、その延長線上にあるソーシャルデザインの仕事は得意とするところ。今は観光を成功させることだけでなく、その地域の日常の価値を上げていくことが求められているので、ハードよりもソフトの部分を編集することが多いです。この町にはどんな人がいるとか、意外な文化が根付いているとか。人と人を繋いだり、目に見えない部分は、外に向けてうまくアプローチできるように工夫したりします。社会や地域が抱える課題は、本質に迫れば迫るほど根深いものがあり、一朝一夕に解決できないことがほとんど。根気強く続けていくためにも、今は、その地域から離れられない企業―たとえばインフラ系の会社と組んで、仕事をしたりすることが多くなりました」

−ソーシャルデザインという言葉も、ずいぶん認知が広がってきましたね。小野さんがこういったテーマに興味を持たれたのは、いつごろからですか?

「成長の過程でなんとなく…学生のときには明確に興味がありましたね。環境ラベルをテーマに研究してたくらいですから。問題の一つひとつというよりも、社会の構造に興味があったんです。幼少期の記憶で印象的なシーンがあって、それは朝のワイドショーで湾岸戦争のニュースが流れる光景。あまりに日常化して、みんなそれをエンタメ的に観賞するわけです。それってちょっとおかしいんじゃないかなって。社会ってもっとよくなる余地があるんじゃないかなって。誰もが戦争なんてなければいいと思っているはずなのに、どこか他人事だったり、日々のいろんなことが忙しかったりして、見て見ぬふりをする。それは、社会の構造のせいじゃないかって」

−発信する側よりも、受け取り手の方に興味があったんですね。

「今は、エコとかエシカルといった言葉も親しまれてきて、それがかっこいいっていう風潮もありますね。そういう時代になったんだなという感覚です。そして、これからは課題を解決する時代から、生み出さない時代に変化していくと思います。greenz.jpのやっていることは社会性が高いことですけど、正義感でやっているわけでも、考えを押しつけたいわけでもない。それぞれが〝ほしい未来〟に対して、それぞれにアクションしているだけです。ただ、期待しているのはポジティブの連鎖なので、それが広がることで、少しでも社会に貢献できたらなと思っています」

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greenz.jp

東京のオフィスを拠点として、自宅で仕事をすることもあれば、地方へ足を延ばすこともある。「ゆったり、シンプルに、感覚を大切に」。無理のないスタイルが、小野さん流。greenz.jpに参加する前は、ベンチャー系の大手ウェブ制作会社でディレクター業務をしていた。そのころは、スーツを着て、毎日電車通勤していたそう。

「横浜の実家から目黒まで、片道1時間ちょっと電車に揺られて。基本的に帰りは終電なので、ベッドに入るのは2時、3時。そうするともう何時間も寝られないわけです。あまりにつらくて、その時人生で初めて実家を出ました。会社の近くに引っ越して、友達とルームシェアをして。金銭的な余裕はなくても、時間的な余裕は必要だと実感しましたね。幸い料理が得意だったので、家で美味しいものも作れるし、お金がなくたって豊かに暮らせましたから」

3年間会社勤めを経験して、その後greenz.jpへ。働き方が劇的に変わったのは、3.11の東日本大震災がきっかけ。greenz.jpでも、東京を離れるスタッフがいたり、そのまま移住するケースもあったり、必然的に遠隔の仕事やノマドワークを受け入れざるを得ない状況になった。

「シェアオフィスに入って、デスクはフリーアドレスに。重要書類だけロッカーに入れて、会社のあらゆるモノもずいぶん減りました。当初は、離れるとみんなの意識がずれるんじゃないかとか、コミュニケーションロスになるんじゃないかとか、心理的な不安もありました。でも実際にやってみると、むしろその距離感が心地よくて。オンライン会議の仕組みやチャットツールはどんどん充実するし、そうすると、同じ場所に集うコストや通勤するコストのほうがもったいないと感じはじめたんです。これまでは、決まっている働き方に自分を順応させていく感じでしたけど、いろんなことが作用して、新たな選択肢が生まれはじめた。〝働き方を自由にデザインできる時代になったんだ〟と強く感じましたね」

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−『+WANDER』では、積極的にオフィスを飛び出すクリエイティブな働き方や、多拠点ワークという仕組みを提案しています。場所やルールにとらわれずに働くことのメリットはなんだと思いますか?

「クリエイターの高城剛さんの言葉で“アイデアと移動距離は比例する”とあるけれど、僕もその通りだと思いますね。新しいアイデアは、既存のアイデアの掛け算でもあるので、やはりインプットが大事なんです。僕の仕事は地域の課題解決なので、プロセスとして移動が伴いますし、結果的に移動距離も多くなりますが、それでもアウトプットが多すぎるとアイデアが浮かばなくなるということがありますよ。そんなときは、方法として無理やり移動します。必要がなくても現地に行ったりね。打合せ相手に“オンラインでいいですよ”と言われたこともあるけど…それだけインプットが大事なんですよね」

実際に足を運ぶことで、これまでに見えなかったものも見えてくる。情報としては知っていても肌感としてわからない部分を、当事者に聞いたり、自分の眼で確かめたり、感じたり。「記事などできれいに整えられた情報と、現場にある情報はやっぱり違う」と小野さん。非言語の部分も含めて、どれだけの情報量を持っているか、いつも気にしていると言う。

「いろんなところへ行って、いろんな人と話しているうちに自然とアイデアが蓄積されます。企画をする仕事ですが、わざわざ企画を考えるという時間はないですね。移動中とかにひらめいたことを書き留めておいて、あとは説明するためにまとめるだけ。オフィスでうんうん唸りながらアイデアを練っていた時代もありましたけど、今となっては、あれはなんだったんだろう…って思いますよ(笑)

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働き方も暮らし方も多様化する中で、実際に自由に働けて、自由に暮らせる人は、まだまだ少ない。ベストは“誰もが、選べること”と小野さんは話す。

「いい働き方に、正解はないですよね。それは、一人ひとりが自分自身で決めること。いいなと思っても実際やってみたら、あまり自分にフィットしなかったなんてこともあるわけだし。だから、まずは、選べる社会であること、それを自由に実験できる雰囲気があることが大切だと思います。今は選択肢が少ないので、働き方を押し付けられているように感じることが多い。日本は、完璧じゃないとはじめちゃいけない、失敗しちゃいけない、途中でやめちゃいけないって空気があるけれど、所詮、やる前の完璧さって空想でしかないでしょ(笑)。あわないならやめてもいい、失敗してもまた新しくはじめればいい。そんなムードになったら、みんなが自分らしく自分のスタイルを見つけられる時代になるんじゃないかなと思いますね」