「どんなに環境が変化しても、誰もが自分の能力を生かしてイキイキと働き続けられる社会の実現」をビジョンに掲げ、2013年に東京で創業した『株式会社Waris(ワリス)』。代表取締役/共同創業者は女性3人で、そのうちの一人が河京子さんです。

主軸とするのは、ハイキャリア女性と企業の仕事をマッチングする人材サービス業。新しい働き方を推進すべく登場した同社は、社会から一躍注目を浴び、ビジネスや人事に関するさまざまな賞を受賞。そして2016年の福岡オフィス開設に伴い、河さんは東京から福岡へと移住しました。

社会に新しい風を吹き込む河さんに、お仕事内容から「好きな時に好きな場所で」働くスタイル、福岡に来て感じたこと、自身の夢までざっくばらんに語ってもらいました。

「ハイキャリア女性×新しい働き方」をキーワードに創業

−まずは河さんのキャリアについて教えてください。

私は岡山出身で、東京の大学を卒業後、2007年に株式会社リクルートエージェント(現リクルートキャリア)に入社。新規事業コンサルタントとして、法人企業の採用をサポートしていたのですが、その中で日本社会の現状に大きな疑問を抱くようになりました。

−疑問というのは?

実は…企業に人をご紹介するとき、どんなに素晴らしいキャリアを積んだ女性であっても、相手が女性というだけで会っていただけないことが結構ありました。既婚者や子どものいる女性、離職期間のある方は、さらに敬遠される。これはおかしいと課題意識が芽生えました。

加えて、今の日本では、働く女性の約半数は第一子出産を機に退職してしまう。さらに、新卒採用や大手・正社員至上主義で人が流動しづらいという現実にも閉塞感が漂っていて。働きたいと思う人がどんな状況でも働き続けられて、もっと自由にチャレンジできる社会を創りたいと思ったんです。

−そこで、女性3人で創業されたのですね。

はい。共同代表のひとり・田中美和は、働く女性向けの雑誌「日経ウーマン」に長く携わり、3万人以上の女性のリアルな声に耳を傾ける中で、私と同じような課題を感じていました。米倉史夏は、金融やコンサルティング会社などで働いた後に出産。ワーキングマザーとなり業務委託で働き始めたところ、この働き方はワーキングマザーにフィットすると感じていた。そのような3人が偶然出会い、同じ思いから生まれたのがWarisなんです。

−具体的には、どんな事業をされているのでしょう?

働きたいハイキャリア女性と企業の仕事のマッチングです。自由で柔軟なワークスタイルを提案し、マッチングしています。例えば、フリーランスやパラレルキャリア、プロジェクトごとの業務委託、短時間正社員、副業、在宅など、従来の正社員の枠に当てはまらない働き方がたくさんあります。ほかにもメディアを運営するなど、事業の幅は広がっています。

創業時から全員「好きなときに好きな場所で働く」スタイル

−Warisのスタッフは、どのように働いているのですか?

まず3人で表参道にオフィスを構えました。ただ、いつどこで働いてもOKというスタイルだったので、みんなリモートで仕事をして、近くのカフェで打ち合わせしたり。オフィスには誰もいないことが多く、電話は転送サービスを利用していました。

創業後すぐ、経理全般を任せる方を探すことに。登録者の中から、経理のキャリアはあるものの、子育てのため5年ブランクがある女性にお願いすることにしました。彼女は東京の郊外在住のため、業務は全て在宅に。ご本人は「リモートで全て任せてもらって大丈夫ですか?」と驚かれたのですが、私たちは性善説に立ち、結果的に彼女にお任せしてすごくよかった。こうして在宅OKにすれば、企業における採用の可能性ってすごく広がると実感しました。

今はいろいろな雇用形態で17人のスタッフがいます。基本的にみんな自由に働き、週1回オンラインミーティングのみ出社、もしくはオンラインで参加することになっています。ほかに、3か月に1度メンバーが集まるクォーター会議では、オフィスではなく、ホテルや宿泊施設など非日常の空間を利用しています。普段の役割や業務から離れて、仕事をはじめ、自分の現状や将来のことなどをじっくり考えるいい機会になっています。

−好きなときに好きな場所で働くことのメリットは?

非常に効率がいいですね。当社には子育てなどで働く時間に制約のある方が多く、移動時間すらもったいない。都合のいい場所で好きな時間に働いて結果を出せれば、それが一番いいと思うのです。

−反対に、不都合を感じることは?

うーん、特にありません。オフィスで顔を合わせなくても、電話やチャット、メールなどですぐやり取りできるし、コミュニケーションは密に取っています。うちではメンバーのスケジュールやKPI(重要業績指標)も全てオープンにしています。その分、セルフマネジメントやセルフコントロールの能力は欠かせません。

また、会社のオペレーションなどで気になることがあれば、みんな何でも声をあげて改善しています。例えば、このやり方は負担になるとか、このメールは多すぎるからチャットにしようなどという意見があれば、その都度みんなで話し合いルールを見直す。問題意識を忘れず、常により良い方法を探り実践しています。

新しい働き方に関して、福岡はまだまだ未開の地!?

−2016年4月に福岡オフィスを立ち上げられました。関東に続く2つ目の拠点として、なぜ福岡を選ばれたのでしょう?

個人的に、私が福岡に住みたかったからです(笑)。みんな福岡を絶賛するし、夫も福岡で暮らしたいと言ってたので。
というのもあるし、Warisとして、次の拠点をどこにするかリサーチしました。その結果、福岡は創業特区でスタートアップが盛り上がり、企業が優秀な人材を求めている一方で、女性自身の新しい働き方への関心も非常に高いことがわかり、数都市の候補から選びました。今、当社の登録企業の7割がベンチャー企業で、スタートアップとは相性がいいんです。

−福岡に来られて1年、手応えは?

福岡は豊かな自然が身近にあって、とても住みやすいですね。移住してきて、本当によかった。
仕事に関しては、正直なところ、東京に比べると新しい働き方がまだまだ受け入れられにくいという印象です。まあ、私の営業力不足というのも否めないのですが…。東京でも初めはそうでしたが、徐々に開拓した経緯があります。
福岡の大手企業の方とお話しても、フリーランスやパラレルキャリア、週3勤務などの女性を活用するという概念自体がない。メリットを伝えても、実践に移そうと決断される方は少数派でして。一方で、福岡の女性側はチャレンジ精神が旺盛で、柔軟に働きたいという意欲がとても高い。そこをどうマッチングしていくか模索している最中で、大きな可能性があると感じています。

−先ほど「スタートアップとは相性がいい」とおっしゃいましたが、福岡のスタートアップ企業とはいかがでしょう?

スタートアップ企業の柔軟性は高いと思います。ただ、まだ資金に余力のないところが多くて。あと2~3年すれば資本調達できて、東京のように採用に力を入れようというフェーズに入る企業が増えるのではないかと見ています。

働く場所を変えてリフレッシュ!アイデアも広がった

−河さんは今宿の『SALT』と『HOOD天神』を利用いただきましたが、それぞれの違う場所で働いてみていかがでしたか?

SALT』には、天気のいい日に出かけました。開放的な空間で美しい海をのぞみ、波の音を聞きながら仕事をするのは、すんごく気持ちがよかったですね。
普段、自宅兼オフィスで仕事をするときはひとりなので根を詰めてしまい、ランチもままらないのですが、『SALT』では近くのカフェベーカリーでゆったりランチしたりして、自分に立ち返りながらも仕事が捗りました。当日はほぼ満席で、利用している皆さんはそれぞれ作業に没頭していましたね。

HOOD天神』では天神のど真ん中、とても便利なところにあり、アポとアポの合間に立ち寄りました。壁に大きなカレンダーがあって、そこにいろんなイベントが書かれているので、見ているとあんなことやこんなことができるかもとアイデアと妄想が広がりました。

「働き方改革」のリーディングカンパニーになりたい

−創業から5年を振り返ってみて、いかがですか?

創業1年目は登録者500人弱から始まりましたが、今では登録者3,600人、登録企業は1,200社になりました。ハイキャリアの女性だけでなく、男性の登録者も増えています。日本ではこれから育児だけでなく介護離職も増えると予想されています。柔軟な働き方が浸透すれば、みんな生きやすい社会になると信じています。

−Warisがこんなに注目を集め、スケールしている理由は?

誰でも働きやすい社会が理想だとみんなわかっているのに、不安や恐れからなかなか動けず、声を出せなかったと思うんです。そんな中、国が一億総活躍や女性活躍推進を掲げるようになり、期せずして私たちの大きな追い風になっています。この風に乗って、私たちはその声をカタチにするツールとして認められるようになり、「新しい働き方がいいよね」とみんながオープンに言える土壌が育ってきていると思います。

−Warisの今後の展望を教えてください。

働き方改革がますます進む中で、働き方改革のフィールドで圧倒的なリーディングカンパニーになりたいと考えています。女性というキーワードが私たちの強みなのでそこは大切にしながら、働き方改革について発信し、着実に実現していく担い手でありたいですね。

最近、IBMやヤフーが在宅勤務を禁止にした、というニュースが流れました。背景を読み解くといろいろなことがあると思うのですが、それはさておき、日本は今、働き方改革を推進しているけれど、揺り戻しが起こる可能性だってある。揺り戻しが起きないようにするには、どんなときでも個人が主体的に自分の人生を捉えて、自分の人生を歩むという強い意識を持って発言・行動していかなければいけないと思っています。

私たちはこれからも福岡移住計画さんをはじめ、志を同じくする企業や人びとと手を取り合って、強くしなやかに前進していきたい。誰もが自分の能力を生かしてイキイキと働き続けられる社会を実現するために、ベストを尽くします。

−最後に、河さん自身の夢を聞かせてください。

私は中学生の頃から、世の中からさまざまな偏見をなくしたいと思っていて、マイノリティの支援に関心があるんです。マイノリティといえば、性別、障害、LGBT、国籍、人種、宗教などいろいろあり、今Warisでやっている女性の支援はそのひとつと捉えています。
将来は海外に住みたいという夢もあり、例えばアジアのどこかの国で“イケてる児童養護施設”を作り、そこに住む子どもが自活できるようなプロダクトやサービスを考えたりしたい。夢はでっかく、足元はまだふにゃふにゃですが(笑)、いつかそんな思いをカタチにしたいですね。
(文:佐々木恵美)